公正価値とは、市場参加者間の通常の取引において、資産の売却によって受け取る価格、又は負債の移転のために支払う価格をいいます。
近年、ベンチャーキャピタルファンドやプライベートエクイティファンドを中心に、公正価値評価の重要性が高まっています。一方で、未上場株式には市場価格が存在せず、事業計画や評価前提によって評価額が大きく変動するため、ファンド監査においても重要な論点となります。
近年、投資事業有限責任組合会計規則(2023年12月公表)において、有責組合(投資事業有限責任組合)が保有する投資資産の評価が原則として公正価値(時価)によることとされたこと等を背景に、有責組合における公正価値評価の重要性が高まっています。
未上場株式については、従来から一定の時価評価が行われてきましたが、実務上は直近ファイナンス価格を基礎とした評価や簡便的な評価方法が用いられるケースも少なくありませんでした。近年は、海外投資家への情報提供の充実や国際的な評価実務との整合性の観点から、公正価値評価の考え方がより重視される方向にあります。
一方で、海外機関投資家を対象とした大型ファンドだけでなく、国内投資家を中心としたファンドも数多く存在します。また、LPには個人投資家や中小企業等が含まれるケースも少なくありません。公正価値評価は有用な考え方である一方、ファンドの規模、投資先企業の成熟度及び投資家の属性は様々です。
未上場企業といっても、その発展段階は様々です。例えば、企業価値100億円規模の企業では、次のようなケースも少なくありません。
一方で、創業間もない企業やシード期の企業では、次のようなケースも多く見られます。
そのため、投資先企業の成熟度によって、利用可能な情報の質や量は大きく異なります。
公正価値評価の前提となる事業計画については、次のような項目の合理性が論点となります。
未上場株式の評価では、次のような手法が利用されます。
もっとも、評価手法を形式的に適用するだけではなく、投資先企業の発展段階や利用可能な情報との整合性も重要となります。
未上場株式の評価においては、直近の第三者割当増資や資金調達時の価格が重要な参考情報となります。実際の市場参加者による取引価格であるため、公正価値を検討する上で重要な観察可能データの一つと考えられます。
同じ有価証券ファンドであっても、GPの管理体制は様々です。
| 項目 | 少数精鋭型GP | 組織型GP |
|---|---|---|
| 運用の特徴 | 人的ネットワーク中心、ハンズオン型の投資先支援 | 投資チーム、LP対応チーム、管理チーム等、機能ごとに分業 |
| 評価プロセス | 属人的な判断に依拠する場面が比較的多い | 社内プロセス・体制に基づく評価が比較的多い |
| 監査上の留意点 | 判断の根拠や前提を個別に確認する必要性が高い | 評価プロセス・体制の実効性を確認する必要性が高い |
ファンド監査においては、GPがどのような体制で投資先を評価しているかも重要な検討事項となります。
未上場株式の公正価値評価は、事業計画や評価手法に一定の判断を伴うため、GPによって評価額が異なることがあります。有価証券ファンドでは、同一の投資先企業に複数のファンドが投資しているケースも存在し、GPごとの評価方針の違いにより評価額に差異が生じる場合があります。
評価額の差異が直ちに問題となるわけではありませんが、その背景や評価方針について合理的に説明できることが重要です。また、複数のファンドに投資するLPの立場からは、「どの評価が実態に近いのか」という視点も重要になります。そのため、過去の評価額と、その後の資金調達価格や売却価格との比較等を通じて、評価方針の一貫性や予測精度を継続的に検証することも有用と考えられます。
公正価値評価は、投資先企業の価値を適切に把握し、投資家へ情報提供を行う上で有用な考え方であると考えています。一方で、公正価値評価は事業計画や割引率等の前提条件に基づくものであり、一定の不確実性を伴います。過度に楽観的な事業計画や客観性に乏しい前提条件に基づく評価には留意が必要です。
特に、個人投資家や中小企業等が出資者となっているファンドにおいては、投資家保護の観点からも、評価の客観性及び説明可能性が重要であると考えています。そのため、ファンド監査においては、評価手法を形式的に適用するだけではなく、投資先企業及びファンドの実態を踏まえ、コストと便益のバランスにも配慮しながら評価の合理性を検討することが重要であると考えています。
また、直近ファイナンス価格等の実際の市場データ、過去の評価と実績との整合性及び評価方針の一貫性は、公正価値を検討する上で重要な判断材料になると考えています。